2009年 10月 28日
■《【掛売買】これまで見てきた、二つの商品の変態の絡みあいである売買は、商品の引き渡しと貨幣の支払が同時に行なわれる現金売買であった。ところが、商品流通の発展とともに、商品の譲渡を商品価格の実現、すなわち貨幣の支払から時間的に離れさせるようなもろもろの事情が発展してくる。たとえば、ある商品を買おうとする買い手が、自分の商品の生産や販売の事情から、支払うための貨幣をまだ入手できないが、しばらくすれば入手できることが確実であるとき、その商品の売り手は、貨幣の支払をその間猶予することが行なわれる。こうして、商品の譲渡ののちに時間をおいて貨幣の支払が行なわれるという売買形態が生まれる。いわゆる掛売買(かけばいばい)である。販売は掛売りとなり、購買は掛買いとなる(図95)。 この売買では、商品が譲渡される第1の時点で、売り手は債権者となり、買い手は債務者となる。そして、第2の時点で貨幣が支払われることによって、この債権債務関係が消滅するのである。 【掛売買における貨幣の機能】 掛売買のさいに貨幣が果たす機能は、いささか複雑である。①まず、現金売買の場合と同様に、貨幣は商品の価値を価格として表現することで価値尺度として機能する。これが売り手と買い手とのあいだで話しあいがついた決まり値であるとしよう。買い手はこの量の貨幣を、この時点(第1時点)よりもあとのある確定された時点(第2時点)で、売り手に支払うことを約束する。この〈貨幣支払約束〉は観念的な貨幣量であって、価格の度量標準によって測られる。②売り手はこの時点で買い手に商品を譲渡する。買い手はいまは貨幣をもっていないが、彼が第2時点で売り手に支払う貨幣、つまり〈将来の貨幣〉が、いま第1時点で商品を買うことに役立ったのであり、この将来の貨幣がいま購買手段として――だからここではただ観念的にだけ――機能したのである。それによって、その貨幣がもつはずの貨幣としての形式的な使用価値が実現されて、買い手の欲求を充たす使用価値を買い手にもたらした。売り手は商品を譲渡したが、現実の貨幣は受け取っていない。しかし、彼はいま、買い手の貨幣支払約束をもっている。これはすでに、実現できるかどうかわからない、彼の商品のたんなる価格ではなくて、第2時点で――約束が守られるかぎり――支払われる貨幣を表わしているものである。だから、彼の商品の価格はこの時点で、すでに観念的にではあるが、実現した。価格は実現して貨幣支払約束になった。この貨幣支払約束は、買い手にとっては債務であり、売り手にとっては債権であって、この時点で売り手は債権者、買い手は債務者になった。③こうして、あと残るのは、第2時点で、債務者となった買い手が、債権者である売り手に貨幣を支払って、債務を決済することだけである。貨幣が支払手段 として流通にはいる。債権者である売り手から見れば、この支払によって、彼の商品の価格が最終的に堅実の貨幣に転化した、つまり商品の価格が現実に実現した。債務者である買い手の側では、すでに第1の時点で購買手段として機能して、その使用価値を実現してしまった貨幣を債権者に引き渡すことになる。 【支払手段としての貨幣の流通】以上が、掛売買における貨幣の機能であるが、ここではじめて現われる貨幣の機能は、第2時点で債務者が債権者に支払う貨幣が果たす機能である。このように、貨幣支払約束にもとづいて支払われる貨幣、債務を決済して債権債務関係を終わらせる貨幣を支払手段としての貨幣という。第2時点では貨幣は支払手段として流通にはいるのである(図96)。 ここでは明らかに、債務者から債権者に貨幣が流通していくのであるが、しかしそれは、流通手段すなわち鋳貨としてではない。ここでの貨幣は、商品の一時的な価値の姿である流通手段とは異なり、債務者が債権者に価値そのものを引き渡すための形態であるから、もともとは本来の貨幣のみが果たすことができる機能であるが、しかし、本来の貨幣に代わりうる銀行券等々の貨幣形態が発展すると、本来の貨幣のそれらの代理物が、支払手段として流通することができるようになる。》 (大谷禎之介『図解社会経済学』105-106頁) 第4段落 ・買い手は自分が商品を貨幣に転化させるまえに貨幣を商品に転化させる。 ・すなわち第一の商品変態よりもさきに第二の商品変態を行なう。 ・売り手の商品は流通するが、その価格をただ私法上の貨幣請求権に実現するだけである。 ・その商品は貨幣に転化するまえに使用価値に転化する。 ・その商品の第一の変態はあとからはじめて実行される。 ★(貨幣支払約束)→(商品)貨幣は観念的購買手段として機能 商品は使用価値に転化 (商品)→(貨幣請求権) 価格の観念的実現 ★買い手 (貨幣支払約束)→(売り手の商品) 【購買】(第二の商品変態 G―W) (買い手の商品)→(貨幣) 【販売】(第一の商品変態 W―G) 売り手への貨幣支払 ★売り手 (売り手の商品)→(貨幣請求権) 【販売】 (貨幣請求権)→(貨幣) 第5段落 ・流通過程のどの一定期間にも、満期になった諸債務は、その売りによってこれらの債務が生まれた諸商品の価格総額を表わしている。 ・この価格総額の実現に必要な貨幣量は、まず第一に支払手段の流通速度によって定まる。 ・この流通速度は二つの事情によって定まる。 ・第一には、Aが自分の債務者Bから貨幣を受け取って次にこの貨幣を自分の債権者Cに支払うというような債権者と債務者との関係の連鎖であり、第二には支払期限と支払期限との間の時間の長さである。 ・いろいろな支払の連鎖、すなわちあとから行なわれる第一の変態の連鎖は、さきに考察した諸変態列のからみ合いとは本質的に違っている。 ・流通手段の流通では、売り手と買い手の関連がただ表現されているだけではない。 ・この関連そのものが、貨幣流通において、また貨幣流通とともに、はじめて成立するのである。 ・これに反して、支払手段の運動は、すでにそれ以前にできあがっている社会的な関連を表わしているのである。 ●支払手段の流通速度とは何かが問題となりました。「それは、支払手段として機能する貨幣が一定の期間に何回持ち手を変えるかということであり、流通回数といった方が分りやすい」という意見が出されました。 ■ 「さまざまな支払期限のあいだの時間の長さ」とは? ここで問題になったのは下線の部分についてです。まず「さまざまな支払い期限のあいだの時間の長さ」とは一体どういうことか、またそれは支払手段の流通速度にどのように関係するのかということと、もう一つはそれはその前にある「債務者と債権者との諸関係の連鎖」に含まれるのではないか、という疑問です。これも色々と議論は出ましたが、しかし最終的にはこれだいう解決には至らなかったように思います。この問題を少し考えてみましょう。 流通手段としての貨幣の流通速度とは、同じ貨幣片が与えられた時間内に流通する(商品の価格を実現する)回数でした。だから今回の場合の「支払手段の流通速度」というのも、与えられた時間内に同じ貨幣片が支払手段として支払われる回数ということになります。これは流通手段の場合と同様、「さしあたり」次の(第6)パラグラフで述べているような「相殺」を考えに入れないとすれば、時間的・空間的に平行して行われる諸支払いの場合は同じ貨幣片がそれらの諸支払いを同時に果たすことは出来ません。だから諸支払いが時間的に継続して起こることが必要です。しかし継続して起こるにしても、まずその連鎖が問題になります。例えばAがBに支払っても、BがCへの支払いの必要がないなら、同じ貨幣片は続けて支払われないからです。また連鎖があったとしても、その間隔がやはり問題になります。つまりAがBに支払っても、BがCに支払うまでには長い期間がある場合、次にCがDに支払うにはさらに長い期間が生じる場合を考えると、そういう場合には、今問題にしている一定期間内の枠の外に出てしまうかも知れません。だから期間が短ければ短いほど、一定期間内における連鎖によって同じ貨幣片が支払い手段として支払われる頻度が高くなります。つまり速度が早くなるわけです。だからやはり連鎖だけではなく、「諸支払い期限のあいだの時間の長さ」も支払手段の速度を規定する要因として考える必要があるわけです。だいたい以上のように考えたらよいのではないでしょうか。 (『資本論』学ぶ会ニュース NO.45 2000年8月30日) ●「さきに考察した諸変態列のからみ合い」とは何かという疑問が出され、「流通手段のところで考察されたもののことだ」という結論になりました。 ■《ある一つの商品の循環をなしている二つの変態は、同時に他の二つの商品の逆の部分変態をなしている。同じ商品(リンネル)が、それ自身の変態の列を開始するとともに、他の一商品(小麦)の総変態を閉じる。その第一の変態、売りでは、その商品はこの二つの役を一身で演ずる。これに反して、生けとし生けるものの道をたどってこの商品そのものが化していく金蛹としては、それは同時に第三の一商品の第一の変態を終わらせる。こうして、各商品の変態列が描く循環は、他の諸商品の循環と解きがたくからみ合っている。この総過程は商品流通として現われる。》(国民文庫200頁・原頁126) ★現金売買では、貨幣流通によって売り手―買い手という関係がはじめて成立する。支払手段の運動は、債権者―債務者という掛売買によってすでに成立している関係を表わしている。 第6段落 ・多くの売りが同時に並んで行なわれることは、流通速度が貨幣量の代わりをすることを制限する。 ・反対に、このことは支払手段の節約の一つ新しい梃子(てこ)になる。 ・同じ場所に諸支払が集中されるにつれて、自然発生的に諸支払の決済のための固有な施設と方法が発達してくる。 ・たとえば中世の振替(virements)がそれである。 ・AのBにたいする、BのCにたいする、CのAにたいする、等々の債権は、ただ対照されるだけで或る金額までは正量と負量として相殺されることができる。 ・こうして、あとに残った債務差額だけを精算すればよいことになる。 ・諸支払の集中が大量になればなるほど、相対的に差額は小さくなり、したがって流通する支払手段の量は小さくなるのである。 ■ リヨン [Lyon] フランス南東部、ローヌ川とソーヌ川との合流点にある都市。水陸交通の要地。伝統的な絹織物工業で知られ、機械・化学工業も盛ん。古代ローマの遺跡や大聖堂などがある。 (大辞林 第二版) ■振替制度 ふりかえせいど 通貨による決済に代わり,取引銀行の預金口座の移転を行い帳簿上のみで債権債務を決済する仕組み。現在日本では普通銀行の預金振替,郵便局の扱う郵便振替,日本銀行の当座勘定交換尻決済の振替がある。歴史的にはヨーロッパ,なかでもドイツで17世紀以降発達,小切手を使用せず振替証書で預金口座の付け替えを行っており,英国や米国では小切手で振替をした。日本にこの制度が導入されたのは1906年,郵便振替が初めである。 ■手形交換所 てがたこうかんじょ 一定地域内にある多数の銀行が相互に取り立てる手形,小切手,公社債,郵便小為替,諸官庁の支払通知書などを毎日一定時刻に持ち寄って交換し,受取総額と支払総額の差額(交換尻(じり))のみを決済する場所,またはこの決済を協定する銀行の団体。交換尻は通常各行が日本銀行にもっている当座預金勘定を増やしたり減らしたりして決済する。日本では1879年大阪に創設。法務大臣の指定を受けた手形交換所は1997年末現在全国に185ヵ所。 (マイペディア)
by shihonron
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