2008年 06月 02日
搾取される労働者の相対的減少を埋め合わせのための労働日の延長 ⑩ 同じ生産部門のなかで機械が普及してゆくにつれて,機械の生産物の社会的価値はその個別的価値まで下がる。そして,剰余価値は資本家が機械によって不必要にした労働力から生ずるのではなく逆に彼が機械につけて働かせる労働力から生ずるのだという法則が貫かれる。剰余価値はただ資本の可変部分だけから生ずるのであり,また,すでに見たように,剰余価値量は二つの要因によって,すなわち剰余価値率と,同じ時に働かされる労働者の数とによって,規定されている。労働日の長さが与えられていれば,剰余価値率は,労働日が必要労働と剰余労働とに分かれる割合によって規定される。また,同じ時に働かされる労働者の数のほうは,不変資本部分にたいする可変資本部分の割合によって定まる。ところで,機械経営は労働の生産力を高くすることによって必要労働の犠牲において剰余労働を拡大するとはいえ,それがこのような結果を生みだすのは,ただ,与えられた一資本の使用する労働者の数を減らすからにほかならないということは,明らかである。機械経営は,資本のうちの以前は可変だった部分,すなわち生きている労働力に転換された部分を,機械に,つまりけっして剰余価値を生産しない不変資本に,変える。たとえば,24人の労働者からしぼり出すのと同じ量の剰余価値を2人の労働者からしぼり出すということは,不可能である。剰余価値を生産するために機械を充用するということのうちには一つの内在的な矛盾がある。この内在的な矛盾は,一つの産業部門で機械が普及するにつれて,機械で生産される商品の価値が同種のすべての商品の規制的な社会的価値になれば,たちまち外に現われてくる。そして,この矛盾こそは,またもや資本を駆り立てて,おそらく自分では意識することなしに(それは第3部の最初の諸篇によって理解されるであろう),搾取される労働者の相対数の減少を相対的剰余労働の増加によるだけではなく絶対的剰余労働の増加によっても埋め合わせるために,むりやりな労働日の延長をやらせるのである。 機械の資本主義的充用-----労働日のあらゆる慣習的制限も自然的制限も取り払う s.430 ⑪ こうして,機械の資本主義的充用は,一方では,労働日の無制限な延長への新たな強力な動機をつくりだし,そして労働様式そのものをも社会的労働体の性格をも,この傾向にたいする抵抗をくじくような仕方で変革するとすれば,他方では,一部は労働者階級のうちの以前は資本の手にはいらなかった諸層を編入〔雇用〕することにより,一部は機械に駆逐された労働者を遊離させることによって,資本の命ずる法則に従わざるをえない過剰な労働者人口を生みだすのである。こうして,機械は労働日の慣習的制限も自然的制限もことごとく取り払ってしまうという近代産業史上の注目に値する現象が生ずるのである。こうして,労働時間を短縮するための最も強力な手段が,労働者とその家族との全生活時間を資本の価値増殖に利用できる労働時間に変えてしまうための最も確実な手段に一変する,という経済的逆説が生ずるのである。 ⑫ キケロの時代のギリシアの詩人,アンティパトロスは,穀物をひくための水車の発明を,このすべての生産的な機械の基本形態を,女奴隷の解放者として,また黄金時代の再建者として,たたえた! c 労働の強化 s.431 労働の強度-----内包的な大きさ ① 機械が資本の手のなかで生みだす労働日の無限度な延長は,すでに見たように,のちには,その生活の根源を脅かされた社会の反作用を招き,またそれとともに,法律によって制限された標準労働日を招くのである。この標準労働日の基礎の上では,一つの現象が決定的に重要なものに発展する-----すなわち労働の強化が。そこで今度は,外延的な大きさから内包的な大きさまたは程度の大きさへの変転を考察しなけれはならない。 労働日の長さと労働の強度とが互いに排除し合う限界点〔交差点,結節点〕 ② 機械の進歩と,機械労働者という一つの独特な階級の経験の堆積とにつれて,労働の速度が,したがってまたその強度が自然発生的に増大するということは,自明である。しかし,だれにもわかるように,一時的な発作としてではなく,毎日繰り返される規則的な均等性をもって労働が行なわれなければならない場合には,必ず一つの交差点が現われて,そこでは労働日の長さと労働の強度とが互いに排除し合って,労働日の延長はただ労働の強度の低下だけと両立し,また逆に強度の上昇はただ労働日の短縮だけと両立するということにならざるをえない。 資本は,全力をあげて,また十分な意識をもって相対的剰余価値の生産に熱中 ・しだいに高まる労働者階級の反抗が国家を強制して,労働時間の短縮を強行させ,まず第一に本来の工場にたいして一つの標準労働日を命令させるに至ったときから,すなわち労働日の延長による剰余価値生産の増大の道がきっはりと断たれたこの瞬間から,資本は,全力をあげて,また十分な意識をもって,機械体系の発達の促進による相対的剰余価値の生産に熱中した。 相対的剰余価値の性格に変化 それと同時に,相対的剰余価値の性格に一つの変化が現われてくる。一般的に言えば,相対的剰余価値の生産方法は,労働の生産力を高くすることによって,労働者が同じ労働支出で同じ時間により多くを生産することができるようにする,ということである。ところが,生産力の発展と生産条件の節約とに大きな刺激を与える強制的な労働日の短縮が,同時にまた,同じ時間内の労働支出の増大,より大きい労働力の緊張,労働時間の気孔のいっそう濃密な充填,すなわち労働の濃縮を,短縮された労働日の範囲内で達成できるかぎりの程度まで,労働者に強要する。「外延的な大きさ」としての労働時間の尺度と並んで,今度はその密度の尺度が現われる。今では10時間労働日の密度の濃い一時間は,12時間労働日の密度のうすい一時間に比べて,それと同じか,またはそれよりも多い労働すなわち支出された労働力を含んでいる。 ③ そこで次には,どのようにして労働が強化されるか? が問題である。 資本は支払の方法によって配慮 ④ 短縮された労働日の第一の作用は,労働力の作用能力はその作用時間に反比例するという自明の法則にもとづいている。それゆえ,ある限界内では,力の発揮の持続という点で失われるだけのものが,力の発揮の度合いという点で得られるわけである。ところで,労働者が現実的にもより多く労働力を流動させるようにする,そうするために,資本は支払の方法によって配慮する(158----ことに出来高賃金によって---第6篇)。 本来の工場での労働日短縮の効果-----工場主の予期せぬ結果 ・ところが,この作用は本来の工場では疑わしいものに見えた。というのは,ここでは,労働者が機械の連続的な均等な運動に従属していることが,もうとっくに最も厳格な規律をつくりだしていたからである。 ⑤ このような主張は実験によって否定された。R・ガードナー氏は,1日12時間の作業をやめて11時間だけ作業させることにした。約1年後に現われた結果は,「同量の生産物が同額の費用で得られて,労働者全体が以前は12時間でかせいだのと同じ労賃を11時間でかせいだ」。 ⑥ 非常にさまざまな種類の軽い模様つきの趣味品までが織られていた織物部では。 ⑦ ここでは,以前に12時間で生産されたよりも多くのものが11時間で生産されたわけであるが,それは,ただ労働者のむらのない忍耐力と彼らの時間の節約との増進だけによるものだった。労働者たちは同じ賃金をもらって一時間の自由な時間を得たが,資本家のほうも,同じ生産物量を手に入れながら一時間分の石炭やガスなどの支出を節約することができたのである。 機械-----労働強化の手段 s.434 ⑧ 労働日の短縮は,最初はまず労働の濃縮の主体的な条件,すなわち与えられた時間により多くの力を流動させるという労働者の能力をつくりだすのであるが,このような労働日の短縮が法律によって強制されるということになれば,資本の手のなかにある機械は,同じ時間により多くの労働をしぼり取るための客体的な,体系的に充用される手段になる。そうなるには2通りの仕方がある。すなわち,機械の速度を高くすることと,同じ労働者の見張る機械の範囲,すなわち彼の作業場面の範囲を広げることとである。 ・機械の構造の改良は,-----労働の強化を伴う。労働日の制限は資本家に生産費の極度の節約を強制するからである。蒸気機関の改良は,ピストンの1分間の運動回数を多くし,また同時に,いっそう力を節約することによって同じ原動機でいっそう大規模な機構を運転することを可能にし,しかも石炭の消費は前と同じか,または減少さえもするのである。伝動機構の改良は摩擦を減らす。また,以前の機械と比べて現代の機械のきわだった長所をなすことであるが,大小のシャフトの直径や重量を,ますます小さくなってゆく最小限度まで減らしてゆく。最後に,作業機の改良は,近代的蒸気織機の場合のように,速度を高め作用を拡大しながら機械の大きさを減らすか,または,紡績機の場合のように,機体を大きくするとともにそれの扱う道具の大きさや数を大きくするか,または,50年代の中ごろに自動ミュール紡績機で紡錘の速度が5分の1高くされたようなやり方で,目に見えない細部の変更によってこれらの道具の可動性を大きくする。 ⑨ 労働日が12時間に短縮されたのは,イギリスでは1833年のことである。すでに1836年にはイギリスの1工場主は次のように明言した。 「以前に比べると,工場で行なわれる労働は非常に増大したが,それは,機械の速度の著しい増大が労働者にいっそうの注意深さと活動性とを要求するということの結果である。」 ⑩ 1844年-----ロード・アシュリ,下院で行なった陳述。 「工場での諸工程に従事する人々の労働は,このような作業が開始されたときに比べれば,今では3倍になっている。----機械は,その恐るべき運動によって支配される人々の労働を驚くほど増加させてもきた。」 ホーナーの予想も超える-----機械と人間の労働力との弾力性 ⑪ 12時間法の支配のもとですでに1844年に労働が到達していたこの注目に値する強度を前にしては,イギリスの工場主たちが,この方向でのこれ以上の進歩はもはや不可能だ,だから労働時間のこれ以上の短縮は生産の減少と同じことだ,と言明したのも,当時としてはもっともなことだと思われた。 「私の得た結論は,12時間で生産するのと同じ量を11時間で生産するのは不可能だ,ということである。さらにまた,私は,出来高賃金で支払を受ける労働者は,同じ程度の労働を続けることができるかぎり最大の努力をするものと考えた。」工場監督官レナード・ホーナー ⑫ こういうわけで,ホーナーは----労働日を12時間からさらに短縮することは生産物の量を減らすにちがいない,と結論したのである。彼自身も,10年後には,1845年の自分の疑念を引用して,労働日の強制的な短縮によって両方とも同様に最高度に緊張させられる機械と人間の労働力との弾力性を,自分が当時はまだほとんど理解していなかったということを,語っているのである。 1847年以後-----十時間法が適用 s.437 ⑬ 1847年以後の時期(イギリスの綿・羊毛・絹・麻工場に十時間法が適用) 「紡錘の速度は,1分間にスロッスル機では500回転,ミュール機では1000回転増加した。----これは,第一の場合には10分の1,第2の場合には6分の1の速度の増加となる。」 ⑭ ジェームズ・ネーズミス(有名な技師)-----1852年のレナード・ホーナーへの手紙。1848―1852年になされた蒸気機関の改良について説明。「その構造の改良やボイラーの減少した容積と構造などの改良の結果,----公称馬力にたいする割合では以前と同数の職工が使用されるにもかかわらず,作業機にたいする割合では以前よりも少数の職工が使用されるのである。」 ⑮----「1856年の最近の報告」(政府統計)「によって確認された事実は,----機械にたいする割合では職工数が減ってきたということ,蒸気機関が力の節約やその他の方法によっていっそう大きな機械重量を運転するということ,そして,作業機の改良や製造方法の変化や機械の速度の増大やその他多くの原因によって製品量の増加が達成されるということである。」「労働日の短縮が-----これらの改良に刺激を与えたということには少しも疑う余地はない。これらの改良と労働者のいっそう強い緊張とは,----短縮された労働日に,以前はもっと長い労働日に生産されたのと少なくとも同量の製品が生産される,という結果」 ⑯ 労働力の搾取の強化につれてどんなに工場主たちの富が増大したか----,イギリスの綿工場やその他の工場の平均増加は,1838年から1850年までは1年当たり32だったが,これにたいして1850年から1856年までは毎年86だったということである。 ⑰ 1848年から1856年までの8年間には10時間労働日の支配のもとでイギリスの工業の進歩は大きなものだったが,この進歩も次の1856年から1862年までの6年間には再びはるかに追い越された。-----1850年以来多くの場合に紡錘や織機の速度は2倍になった。-----1862年と1856年とを比べれは,織機数は非常に増加したにもかかわらず,従業労働者の総数は減少し,搾取される子どもの数は増加したのである。 ⑱ 1863年4月27日に議員フェランドは下院で次のように説明した。 「-----機械の改良によって工場での労働は絶えず増加しているとのことである。以前は一人が助手といっしょに2台の織機----,今では助手なしで3台----また,一人で4台を扱うというようなこともけっして異例ではない。12時間労働は,----今では10時間よりも少ない労働時間のなかに圧縮されるのである。」 労働力そのものを破壊するような労働の強度 ⑲ 工場監督官たちは1844年および1850年の工場法の良好な結果を飽きもせずに,また正当に称賛するのであるが,----労働日の短縮が,労働者の健康を破壊するような,したがって労働力そのものを破壊するような労働の強度をすでに生みだしているということを,認めるのである。 「たいていの綿工場や梳毛糸工場や絹工場では,近年非常に運転速度を高くされてきた機械を取り扱う労働に必要な,激しい疲労を伴う興奮状態が----肺病による過大な死亡率の一原因だと思われる。」 転回点⇒8時間運動 ⑳ 資本にたいして労働日の延長が法律によって最後的に禁止されてしまえば,労働の強度の系統的な引き上げによってその埋め合わせをつけ,機械の改良はすべて労働力のより以上の搾取のための手段に変えてしまうという資本の傾向は,やがてまた一つの転回点に向かって進まざるをえなくなり,この点に達すれば労働時間の再度の減少が避けられなくなる(177---いま(1867年)ではもう8時間運動がランカシャで工場労働者たちのあいだに始まっている)。 ・1848年から現代までの時代すなわち10時間労働日の時代のイギリス工業の激しい前進が,1833年から1847年までの時代すなわち12時間労働日の時代を凌駕していることは,後者が工場制度の開始以来の半世紀すなわち無制限労働日の時代を凌駕しているよりもずっとはなはだしいのである。
by shihonron
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